NHKドラマ『大奥』が放送され好調な様子である。火曜日の22時という時間帯はTBSのドラマ枠(「逃げ恥」の枠)と丸かぶりで民業圧迫の声が出るほどだった。
相当前に連載開始されたマンガが原作で「何を今更」感があったのだが、原作の骨太感が古さを感じさせない。
古さを感じるとすれば連載当時映像化された映画(2010、2012)とドラマ(2012)の方だろう。(1作目の映画吉宗編=吉宗を柴咲コウ、水野を二宮和也が演じた。続編のTBSドラマ家光編=家光を多部未華子が演じ、お万の方を堺雅人が演じた。映画2作目綱吉編=綱吉を菅野美穂、右衛門佐を堺雅人が演じている)
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右衛門佐

今回、NHKのドラマを見つつ、原作マンガを読んでみた。
2004年から2021年まで連載されたマンガは全19巻で三代将軍家光(最初の女将軍)から幕末十五代慶喜(男)まで江戸幕府と大奥の趨勢を描いた歴史巨編である。
単なる時代劇でないのは3代将軍家光(男=女将軍家光の父親)の頃に突如現れた「赤面疱瘡」という疾病によって男女の構成比が著しく変化したため社会の構造が大きく変化し、それを真正面からシミュレートしているからである。
赤面疱瘡は男性しか罹患せず、致死率は80%を超えるという病で、男性の数が女性の4分の一まで低下した。世の中は女性中心にしか動かせず、男性は単なる種馬として子供を作ることしかできない存在になった。幕府の政も同様に女性が担うこととなり、女将軍が生まれることになる。この部分は家光編で描かれる。家光(女性の方)が不幸な生い立ち乗り越え、いかに非凡な名君になったか、徳川の治世を安定させたかを描いている。

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徳川吉宗


本来家光(男)の側室として世継ぎを生むことを目的とした組織『大奥』(春日局が作った)も変容を遂げる。当然将軍が女性なので側室たちは男となり、将軍に種付けし、次期将軍の父親となることが男たちの希望となる。
連載当初はこの「男女逆転」が話題になりドラマ化もされたのだが、完結した現在、到底そんな矮小な話ではなかった男女逆転による社会の変容、疾病の克服、外つ国との関係、権力の承継問題等様々な事象を真正面からシミュレートしている。
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青沼

このお話が本格的なSFだと考える理由は単に男女逆転のifの世界を描いているということではない。物語の終盤、「あること」が起こり、ここで語られた歴史は現在のわれわれの歴史と接続される。矛盾なく我々の史実に組み入れられるのだ。
それはとても鮮やかな手腕で、長い物語を収束させる。
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平賀源内


物語の連載途中で映像化された、吉宗編、家光編と綱吉編は、男女逆転社会での男女の情愛を描く作品になっていた。
連載終了後のNHK版は当然のように幕末まで描くという。そうでなければよしながふみの『大奥』を描いたことにはならないであろう。シーズン2は2023年秋の放送だそうである。