この書名の「早番」というのは書店の昼勤のことである。対する言葉は当然「遅番」である。ハッキリ書かれていないが遅番は夕方から深夜帯にかけての勤務の人たちのようである。
この本より前に書かれた『遅番にやらせとけ』と対になる書名、装丁(イラストが同じ)だが直接の続編ではない。書店を舞台にしているのは同じだが、別の書店、登場人物も異なっている。自分も読み終わるまで前著のことを知らなかったが、全く問題なく読めた。
書店員出身の作家というのはある程度存在する。米澤穂信が確かそうだし、『塞王の楯』で直木賞をとった今村翔吾も書店のおやじ(失礼!)だったはず…(キタハラさんが元書店員かどうかは知らない)
本好きで本に関係する仕事がしたくて書店員にという人が一定数存在する。(と、思う)
基本儲からない仕事なので薄給(本当か?)だがそれでも書店員に、という人は本が好きか、書店が好きか、それ以外の仕事ができないか、はたまた人事異動で仕方なく働いているかのどれかであろう。
本書の主人公倉橋由佳子はその最後のケース。
アパレルが主力の会社に就職しその通販部門で働いていたが、何の因果(これは後々明らかになる)か書店部門の実店舗に回されてしまう。本社の社員なので店長として赴任するのだが、店には以前からの書店員(パート・バイト)が在籍しており、商品知識も、商品に対する情熱もない新任店長との間に軋轢が生まれる。というお話である。
特に年下で仕事ができて美人の幸田 凛(21歳)にやり込められる日々である。
業績を上げて早く元の職場に戻りたいというのが由佳子の望みだったが、奮闘するうちにこの店を(少なくとも自分が店長の間には)潰したくないと思うようになる。書店は客にとっても店員にとっても必要な場所だと気づきはじめたのだ。
書店員を扱ったお仕事小説はいろいろあって、細かい書店の仕事のあれこれ(スリップがどうの、返本がどうの…)が描かれることは珍しくない。が、それはやや食傷気味である。(大変なのはもうわかったから…)この小説ではそういう部分はあまり書かれていない。むしろ人間関係やそれぞれの思い、由佳子のアラサーライフに重きをおいている。
それでもやっぱりモンスターなカスタマーは登場する。こどもの客がいる前で新刊コミックを棚買いしていく、いかつい転売ヤーや、日がな一日時代小説の文庫を立ち読みしているおじいさん(何時間も店にいるが買ったことがない)=他の客の邪魔にならないようにするうちに流されて少女文庫の棚前にいることがある(この爺さんは物語の終盤でミラクルを起こす)
様々な現実が重くのしかかる中、最後はさわやかな一陣の風のような読後感が残った。
2時間ドラマにぴったりなボリューム感で、ぜひ、映像化してほしいものだ。
妄想キャスト
倉橋由香子 黒木華 (店長)
鷹村光太郎 三浦翔平(倉橋の友人)
幸田 凛 山下美月(書店員)
有吉こずえ 本上まなみ(書店員・シングルマザー)
吉屋 響 松本若菜(書店員)
林まどか 高畑充希(書店員)(こんな脇役、絶対無理だけど)
森 森本レオ(書店員=社員)
正宗亮 成田亮 (倉橋の大学時代の知人・作家)
こんな美人揃いの書店は存在しませんな。
こんな美人揃いの書店は存在しませんな。
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